こころ。




まだ数名しか曲を披露していないが、第十五回ポップンパーティーは大盛り上がりだ。
パーティーの開幕が六の新曲「路男」だったからかもしれない。
みんなが歌って踊って笑っている。そんな中。

「どうだ?あれから3年たったが…楽しいか?」

MZDは悪戯に目の前で光の粒を輝かせ、横で”投影”される少女に訊いた。
その少女は、新たに書き換えられたプログラムで、全体的に黄色い配色だ。黒い帽子が映える。
真実か否か、少女―フロウフロウは微笑んだ。

「ウン。トッテモ楽シイヨ」
「そっか。にしてもみんな盛り上がってんなー」
「ソウダネ」

フロウフロウはステージの上を見、恥ずかしがる王子を引っ張ってくるつよしに苦笑した。
そしてパーティー会場をぐるっと見回し、とても楽しそうに微笑んだ。

「王子サンの曲モつよしクンの曲モ、ミンナの曲モトッテモ素敵!」
「つよしの曲は元気出るよなー…っと、そうだ」
「?」

フロウフロウが首をかしげて両手を口に当てる。一種の萌えポーズのようだ。
「可愛くなったな」と親父みたいに呟き、影から何かを受け取った。
携帯電話…の様にも見えるが、そうではなく、どちらかというとMP3プレイヤーに近い物のようだ。
ピピピと電子音が鳴り、MZDはポケットからコードを取り出した。
その片端を手の中の機器に繋げ、左手で投影機を浮かせた。一緒にフロウフロウの高度も上がり、 かなり高い位置に投影されている。
MZDが見上げると、赤面してしゃがみ、顔をふさいだ。

「どした?…あ 悪い」
「〜///」

機械、映像とはいえ、フロウフロウも女の子だ。下から見られる事には抵抗があるのだろう。
MZDは悪戯に笑って、投影機の接続端子にコードのもう片端を繋げた。
機器のボタンを押し、またピッと電子音が鳴る。

「ー… ほい完了」
「ふぇ?ア、新シイでーた確認…エート、音楽でーた?」
「おう。お前の為の新曲だぜ」
「ほわー…」

MZDがコードを抜いて投影機を下ろす。と同時に、フロウフロウはヘッドホンに手を当てた。
耳…ではなく、彼女の本体である投影機の中を音楽が駆け巡る。
新曲―「Flow」。
前担当曲「CURUS」と同じくフロウフロウのような浮遊感があり、
「CURUS」の寂くも優しい感じとは少し違い、暖かな感じの曲だった。
目を閉じ、曲を感じる。
機械じゃない。プログラムじゃない。

「トッテモ素敵ナ曲ダネ。アリガトウ!」

こころ、か。

「おう。お前にぴったりだと思ったんだ」

満面に笑みを浮かべ、ポケットに手を突っ込んだ。さっきの機器とコードは影が持っている。
フロウフロウも微笑み、胸をぎゅっと抱いた。
温かい、気がした。

「お前も、もう立派な”心”を持ってんだな」

花嫁になった娘を見るような顔で、フロウフロウを見る。後ろで影も笑っている。

「ココロ…?」

不思議そうに聞き返す。その返事、言語は、プログラムによって生成・発音されたにすぎない。
しかし彼は、「ああ」と”こころ”を肯定した。
滅多に見せない、外見年齢に合わない真面目な顔になる。

「お前、新曲もらって嬉しかっただろ?それにさっきも、下から見られたの恥ずかしがってたよな。
そう言う、まあなんつーかだな。自分がいろいろ感じるだろ?」

真面目な顔に合わず、よく判らない説明をする。
しかし、フロウフロウにはそれで十分だった。もう一度、胸をぎゅっと抱く。

「ウン。凄ク嬉シクテ…ココガ温カクナッタ気ガシタ」
「ああ。それだけで立派な心だぜ。もう機械とか映像じゃねえ。胸張って生きてるって言えるからな」
「ウン!」

間違いなく、その笑顔は心からのものだろう。
プログラムではない、感情―”こころ”が作り出した笑顔で、彼女は笑った。

「ほら、もうちょっとでつよしのライヴ終わるからさ、行って来いよ」
「イイノ?」
「神からのリクエスト…って言えば、逆らえる奴はいねぇ」
「アハハッ、MZDッテイジワルダネ!…ジャア、イッテキマス」
「おう」


その後ろ姿は、はっきりとそこにあった。
映像だけど。所詮映像だけど。
温かいものが、きっとここにある。
音を奏でれば、何時だって感じられる。



こころ。


パーティー会場に、暖かなメロディが浮遊した。




END.






***

案山子様から頂いたフロウフロウ復活小説です!
あああ萌えポーズを想像するとたまらないです…!恥ずかしがるフロウも可愛いです!
そんな中に切なさを感じる素敵小説、ありがとうございました!